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山と自然



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五感の山 
足元の草に埋もれそうな、小さな花を歩きながら見つける。森の中の雑多な音の中から様々な生き物の息遣いを探り当ててゆく。かさかさと揺れ動く微かな笹の音で獣の気配を感じ取ることもある。風には匂いがある、乾いた風しめった風、風は山でその時一番豊かなものの匂いを運んでくる。それぞれの源流の水の味、味の違いが分からなければ酒の旨さや口に広がる蕎麦のほのかな香りも分かるまい。触ってみることで分かることは多い。意外となめらかな山毛欅の木肌、触ってはいけない虫、苔の繊細な感触はいつまでも指先の記憶に残る。常日頃、五感を鍛えることの大切さ。山登りはただ山を歩くだけではない、五感を研ぎ澄ませ、五感の全てで山の自然を享受するとき、山の中で生き物としての人になれる。 




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二口北石橋

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 裏磐司の岩壁

二口山塊
大行沢に代表される二口山塊に初めて足を踏み入れたのは、小さな短い沢と秋の尾根筋であった。人の足跡が聞こえない沢筋と錦秋の尾根道に思わず立ち尽くし、次の山が、次の沢が際限なく見えてきた。それ以来、土日の休みだけでは遠い道のりを通い続けた。ブナの林をとうとうと流れる舗装道路のようなナメ床に癒されただけではない。ナメは時にして頭上に広がり足場のないつるつるのゴルジュやスラブ壁を生みだし、突然立ち上がり滝を形成し緊張を生む。だが、緊張が解かれた後には再び癒しのナメ滝の連なり。まるで人生のようではないか。ナメ床を通り過ぎてゆく流れの音は胎内で聞く母の呟きのように、森の自然の中に吸い込まれて風の音や鳥の囀りを邪魔しない。社会の営みの中で辛い時期は誰にでもある。山どころではない時期に必ず思い出していた二口山塊の風景。自分の境遇を嘆くのではない、滝の弱点を見極め突破してゆく喜びは、自分の境遇を喜びとして克服してゆく過程の楽しみではないか。奇抜な滝や造形にあふれた二口山塊の沢を歩くとき、滝の向こうにある稜線を眺めて、その過程の喜びを学び、英気を養っていたのかもしれない。過程の辛さを喜びとして、楽しむことを教えてくれたのも又山である。 

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二口グリーン

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ナメ床

自然が語る時
 自然が語りかけてくる時の美しさ。山毛欅の森が思い出を語る時、水面に踊る光が岩魚の躍動を語る時、薄明の地平が静寂を語る時、黄昏が明日の命を語る時、樹氷原が様々な容姿で夢想を語るとき、雪が何色にも染まる楽しさを語りかける時、草原を渡る風が花の思いを語りかける時、岩陰の花が愛を語りかける時。心を持った人間が感じるのは、心をもたない自然の美しさに他ならない。心を持たない宝石の美しさと違うのは、そこに金銭の価値が無いからだ。山登りは五体で味わうもの、道具や技術に価値や対価を見出してしまった山登りは、自然が語りかけてくる美しさを見失ってしまった結果かも知れない。いつでも自然が語りかけてくる山登りをしたい。 

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八甲田山、岩木山を望む


山の中で 
 山毛欅の森を歩いていると10年前に亡くした母のことを思い出す。踏みしめる土は軟らかく、大きなものに包まれている安堵感があり、何でも話せるような気がする。「元気で幸せにしているよ」母が一番喜んでくれる事だから、いつもそんな風に言えるように努力している。山で満天の星を見ていると私を可愛がってくれた大切な人を思い出す。叔母や店の人や山仲間、恩を返せずお礼も言えずに逝ってしまった人を、星の中に見つけたりする。私は山からいろいろなものを貰っている。時には試練だったりするが、それも大切な贈り物だと思う。常識が誤りであったり、非行が正しかったり、自分の気持ちを素直に伝えていれば、人や社会の評価に戸惑うこともない。それを山の自然が教えてくれた。



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タニウツギ咲く沢筋


自然第二章
山の自然を人は聳え立つ岩峰やたおやかな山容。花や鳥や木々の有様、葉の色、土の香りで語るかも知れない。だが自然こそは感じるのもであって、目に見えない営みの中でこそ輝いている。それは時が見えないのと同じで、自然の風景が哲学になり文学になる。そんな時、花や鳥や岩や土、色までが語りかけてくる。だが、最も大切なのは人が人に語りかけてる時のあり方、無機質な言葉から内面を吐露する語りかけが、あるのかないのか、それが山では最も大切な風景なのである。  

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杓子沢を滑る。

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山と旅
日本百名山はまだまだ先の遠い存在であるが、それなりに色々なところへ出かけてはいる。山登りをしていると、下山後はさっさと帰ることが常である。下界の全てに興味がない。それでも温泉に入って、時間があれば蕎麦屋に立ち寄るのが楽しみになった。山から下り立った山里には、立ち寄りたくなる魅力あるところが沢山ある事を感じるようになったのはごく最近である。いつも素通りしている所に蔵のカフェがあったり。先月1ヶ月で3回も出かけた南牧村には古民家の「ちょっとしたcafe」という気になるところがあったが、やっぱり素通り。下仁田駅前には「ヒロ」という洋食や、電車で西上州の山に通ってた頃の常連。かにクリームコロッケが絶品だった。心地よい風に陽射し、木々のざわめきや水の流れに自然を感じる山、山を下り、土地の人の営みにお世話になり、身をゆだねてほっと一息、心地よい空間で愛情をいただくひととき。山と無縁ではない土地を巡り、山から下り立った里から眺める山脈を、里の風景として眺める時、登山者は旅人となる。

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鹿島槍と桜

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クロサンショウウオのタマゴ  斑尾高原


「知らない街角を曲がれば、それが旅」
私の好きな言葉である。だから街へ出かけたときは道を決めずに通ったことのない角を曲がることにしている。小さな神社やお稲荷さんがあったり、入ってみたくなるようなお店や、縄張りを見張っているような犬や猫に出くわすこともある。関心を持てばそれが旅になる。冒険などと大げさなものでなくても、未知への憧れは誰にでもあり、人跡未踏の秘境でなくても驚きと感動はすぐそこにある。山登りもしかり、同じ山を同じコースで何回も登るのなら、地図を見て、次はあっち次はこっちと、道を外してみれば山登りは止めどもなく面白くなる。その結果遭遇する困難に立ち向かい、越えて行く作業こそ憧れの成就である。そこで学ぶことは自分に足りないもの、技術や経験、精神力や体力であったりする。それを知る事こそ山登りそのものではあるまいか。   雅
命題 
今を考えず、過去を振り返らず、ただ明日だけを考える。ふと、旅に出かけたくなるのはそんな時であろうか。社会と言うつながりの中で暮らしていながらその習慣や体裁に縛られずに自分の素直な気持ちを貫くことは容易なことではない。素直な気持ちを大切にすれば、時には社会を欺き周囲の者を困らせる。つながりを大切にすれば自分を欺くことになり、自分を押し殺した生き方になる。何を大切にするか、それは天涯孤独な身になってみれば分かることである。自分が幸せでいること、それを望まない人はない。行きたいときに山に行く。単純なことだが、自分の生き方を問う命題なのかも知れない。


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風吹大池を行く

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山頭火 
山があるから山を仰ぎ見る、水が流れているから流れを辿ってゆく。帰ってゆく所のない旅は、悲しいものだが、家族を失い、家を失い、全てを失って初めて自由な旅が出来る人もいる。絶望するも、歩み出すも、結局、人は生き方。岐路では生きるための選択ではなく、生き方を決める選択をしたい。動物も植物も同じように動いている。ただ流れる時間の早さが違うだけ。動物的な生き方、植物的な生き方、ただそれだけで山での過ごし方も、見える視点も違ってくる。「分け入っても分け入っても青い山」全てを失い、流浪の旅の中で読んだ句の中に、世の無情を全て受け入れ、尚自分を慈しみ、今だけを考える山頭火の生き方が見えてくる。

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安達太良山鉄山西尾根

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じねん
山の行き帰り、土産物屋をのぞくと自然薯が売っている、「じねんじょ」と読む。自然をじねんと読むのは禅からきている。あるがままの自然を会得することが、すなわち仏になることである、という教えなのである。自然の摂理を敬い、自然と敵対せずに、自分の技術や経験に驕ることなく謙虚な姿勢で臨む山登りは、禅の「じねん」に通ずるものがあるような気がする。どんなときでも、常に自然はあるがままの姿でそこにある。そこに我を持ち込むのは我々人間である。時には我を張って山を挑戦の場としても、山では自然に生かされている、それを忘れまい。 雅


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富士山雲海。
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プロフィール

bunatoiwana69

Author:bunatoiwana69
山のソナタ集へようこそ!
19の時から山登りを始めて現在75歳。
東京の京橋に生まれ、都会に育ちながらも山の自然に憧れる。
脇目も振らず、馬鹿のひとつ覚えで山登り一筋。
時々の風景と想いを切り取りブログにしました。

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